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美しい本の世界<行人> [夏目漱石]

久しぶりの美しい本は、漱石先生の「行人(こうじん)」。
橋口五葉様が担当した漱石本では、最後の装幀になります。

まずは函。
これまでの作品にはない白黒のデザインが斬新です。
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表紙、背、背表紙。
背に濃藍と朱色の模様が施された羊皮スエードが使われています。
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模様のアップ。
草木や魚、鳥などが描かれていてかわいらしい。
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表紙と本文をつなぐ見返し。
ここにも植物や動物が描かれていて、五葉ワールドが全開です。
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扉。
五葉様は本の顔として表紙と共に大切にしていたそう。
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奥付。
「行人」は大倉書店から発行されました。
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こうしてみると、五葉様は本の装幀という仕事において、表紙、見返し、
扉などの細部にまで凝ったデザインを施し、一冊の本を芸術品のように
仕立て上げていたのだな。

また、五葉様の装幀は美しさだけでなく、エキゾチックだったり、
かわいらしさがあったりなど、様々な表情があるのも特徴的で、そこが
魅力でもあります。

そして漱石先生の美しい本の世界は、ここから更にすごいことになって
いきますよ。

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二百十日 [夏目漱石]

カレンダーを見ると、本日9月10日は「二百二十日(にひゃくはつか)」。

二百十日は聞いたことがあるのですが、はて二百二十日とは?
調べたところ、「八朔」「二百十日」「二百二十日」は、古来より暴風雨が
やってきて、稲作に被害を与える要注意の日とされ、「三厄日」と呼ばれるそう。

ちなみに今年は八朔が9月7日、二百十日は8月31日、二百二十日は9月10日と
なっています。

二百十日と聞いて思い出すのが、漱石先生の小説「二百十日」。

明治39年10月の「中央公論」に掲載され、「草枕」と「虞美人草」の間に
書かれた作品。
阿蘇を旅する圭さんと碌(ろく)さんの物語で、全編ほとんどが会話で
構成されています。

豆腐屋に生まれて苦労して学業に励んできた圭さんは、金力や権力をもって
貧しい者を圧迫する金持ちや華族に憤りを感じています。
金持ちや華族を阿蘇の噴火口に落としてやろうという意気込みを抱き、嫌がる
碌さんを誘って、阿蘇に登ることに。
しかし、折から二百十日の風雨で、なかなか噴火口に辿り着けず、とうとう
碌さんは途中で足に豆をつくり、圭さんは穴に転落してしまいます。
そんな二人の頭上で、容赦なく轟々と鳴る阿蘇山。

阿蘇山のエネルギーが、圭さんの金持ちや華族に対する憤りを表す象徴に
なっているところが、とても印象的。
二人の会話に時々入りこむ、阿蘇の噴火=自然の描写がとても力強く、
物語を引き立たせています。

そこには、権力や明治の急速な近代化に憤りを感じていた漱石先生の感情が、
投影されている様に思えます。
そして、漱石先生の時代から時を経た現在も、世の中では二百十日のような
暴風雨が吹き荒れていますね…。



収録作品の「野分」についての記事はコチラ。
https://tsukimisou-rock.blog.ss-blog.jp/2021-04-10

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夢十夜 [夏目漱石]

真夏の夜にひんやりするお話はいかがでしょうか。

夏目漱石著「夢十夜」。


漱石先生が朝日新聞に入社し、職業作家として「虞美人草」「坑夫」などを
発表した後に書いたものであり、短編でも随筆でもなく小品とよばれるもの。

「こんな夢を見た」という語りから始まる、第一夜から第十夜までの10編の
不思議なお話です。
「世にも奇妙な物語」的な感じでしょうか。

最も有名なのは、
「腕組みをして枕元に座っていると、仰向に寝た女が、静かな声で
もう死にますという。」という冒頭から始まる第一夜。

どのお話も不思議で、もの悲しくて、少し背筋がゾッとする。
読んでいくうちに、夢の話なのか現実なのか分からなくなってきます。

そして、過去にとらわれ、何者かに追われる人達が描かれるのは、後の作品
「門」に続くようにも思われます。

他の漱石作品とはまた違った味わいの「夢十夜」。
岩波文庫の文庫本には、その他に「文鳥」「永日小品」がおさめられています。

また、発売当時に「夢十夜」が収録された「四篇」は、装幀が美しいので、
よろしければご参照ください。
https://tsukimisou-rock.blog.ss-blog.jp/2021-05-21

タグ:四篇 夢十夜
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夏目家の人びと、漱石の家族 [夏目漱石]

久しぶりに漱石山房記念館を訪れました。

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現在のテーマ展示は「夏目家の人びと、漱石の家族」。
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漱石先生といえば、二男五女に恵まれた子だくさんの大家族。
頂き物があると子供たちに食べさせたり、お土産を買ってきたりと
優しい父親であった半面、神経衰弱に陥った時はとても怖い父親
として、子供たちの記憶に刻まれたそうです。

ちょうど神経衰弱がひどい時期に生まれ育った子供たちにとっては
怖い父親というイメージがあったそうですが、神経衰弱がおさまった
時に生まれた子供にとっては、優しいお父様というイメージだった
らしく、同じ子供でも大違い。

また、先生自身の生い立ちは、幼い時に里子や養子にだされるなど
不遇な少年時代を過ごしました。
随筆「硝子戸の中」にそのことが記されていたり、「道草」では
養父の金銭問題に悩まされたことを題材にしています。

漱石先生の作品は、どこか寂し気な雰囲気を感じさせるものが多い
のですが、子供の頃の体験に基づいているのでしょうか。

本展では先生の作品や日記、先生が奥様や子供たちに宛てた手紙、
家族写真などが展示されています。

イギリス留学中、奥様に手紙を書いてもなかなか返事が来ないので、
催促の手紙を送る先生がかわいい。
きっと寂しかったのでしょうね。
とはいえ、奥様の方も子育てに忙しくて返事どころではなかったよう
ですが。

子供たちへの手紙は、かわいい動物の絵や写真の葉書を選んでいたり、
内容にも優しい父親の思いが表れていて、とてもほっこりします。

弟子である森田草平が言ったように、夏目家は「吾輩は猫である」の
苦沙弥先生の家族そのもの。

にぎやかな家族ができてよかったですね、先生。

展示を見た後は、併設されているブックカフェで一休み。
先生の大好物だった空也もなかとほうじ茶を頂きながら、漱石先生も
この場所でお茶してたのだなと、しばし空想にふける。
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ガラス張りでとても日当たりがよく、気持ちいい。
記念館の前に植えられている様々な植物たちも目に入る。

こちらの不思議な植物は芭蕉。
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記念館のブログによると、漱石先生が「硝子戸の中」で書斎から外を
見渡し、最初に目に入るものとして記しているのが芭蕉だそうです。
南国っぽいバナナのような実がなっているのですが、バナナと芭蕉は
同じバショウ科の植物だとか。

その他にも漱石先生ゆかりの植物が植えられていて、それを見るのも
楽しいです。

★「夏目家の人びと、漱石の家族」は10月3日まで。
漱石山房記念館の詳細はコチラをどうぞ。
https://soseki-museum.jp/

★漱石山房記念館についての過去の記事はコチラ。
https://tsukimisou-rock.blog.ss-blog.jp/2020-11-07

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美しい本の世界<門> [夏目漱石]

「三四郎」「それから」に続く、漱石作品の前期三部作である「門」。
今回も橋口五葉様の装幀です。

こちらは函。
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表紙、背、背表紙。
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シンプルですが、薄紫色が上品な雰囲気。
今年流行りのくすみカラーですね。

特に背のデザインが好き。
色といいデザインといい、お洒落!
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こちらは表紙に描かれた絵を拡大したもの。
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なにかの動物に見えるのですが…猿?
五葉様のデザインは細部まで実に細かく、美しいものもあれば、
このように可愛らしくてほっこりするものも。
読者を飽きさせないですね。

こちらは扉。
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奥付。
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「四篇」同様、見返しがないのが残念。
五葉様が描く見返しは、草花や鳥獣が描かれているので、眺めていると
楽しくて癒されるのです。

漱石先生と五葉様による美しい本の世界。
いよいよクライマックスに近づいてきております。

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美しい本の世界<四篇> [夏目漱石]

今回の美しい本は、夏目漱石先生の「四篇」。

「文鳥」「夢十夜」「永日小品」「満韓ところどころ」の4作品が
収録されています。
装幀を担当したのは、今回も橋口五葉様。

函。シンプルです。
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表紙、背、背表紙。
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五葉様お得意の動物や植物がアールヌーボー調に描かれています。
絵に生き生きとした動きを感じますね。

こちらはデザインのアップ。ウサギがかわいくてほっこり。
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扉。
五葉様は本の「顔」として表紙と共に大切に考えていたのだそう。
確かに凝っています。
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「文鳥」のデザイン。
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奥付。発行元は春陽堂。
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そういえば、この作品には見返しに絵が描かれていないですね。
五葉様といえば、見返しのデザインも凝っているので楽しみなのですが。

とはいえ、表紙のデザインがとても印象的な作品です。

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美しい本の世界<それから> [夏目漱石]

前回の「三四郎」に続く、漱石作品の前期三部作。
「それから」の装幀です。

こちらは函。
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表紙、背、背表紙。
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多色木版による連続模様が目を引くデザイン。
描かれているのは、睡蓮の葉と魚でしょうか。
個性的で面白い。

見返し。
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薄墨で描いたような葉と薄緑色の組み合わせが、上品で素敵。
このデザイン、好きです。

扉。
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扉の次のページ。
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奥付。
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今回も橋口五葉様が装幀を手がけているのですが、これまでの作品で
一つとして同じようなデザインがないことに驚きます。

このような読者を飽きさせない工夫が、漱石作品の魅力ををさらに
引き立たせているのですね。

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美しい本の世界<三四郎> [夏目漱石]

漱石作品の中でもポピュラーな作品の一つ。
「三四郎」の装幀です。

装幀を手掛けたのは、今回も橋口五葉様。

まずは函。
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幼い頃から草花を好み、自ら種を蒔いて育て、開花したらそれを
描いていたという五葉様。
装幀のデザインにも草花や鳥獣が描かれていて、私たちの目を
楽しませてくれます。

表紙、背、背表紙。クロス装になっています。
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シンプルなデザインの中にも、ちょこっと描かれた梟がかわいくて、
思わずほっこり。

見返しに描かれているのは、タンポポ。
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扉。タンポポとトンボ?
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奥付。
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一冊の本のカバー、表紙、見返し、扉の全てにおいて細部までこだわり、
芸術作品のように仕上げた五葉様。
まさに美の職人!
漱石先生のお気に入りだったのも頷けます。

そして、五葉様の美しい本の世界は、まだまだ続きます。

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野分 [夏目漱石]

先日「草合」の装幀について触れましたが、収録されている作品は
「坑夫」「野分」の2つ。

どちらも漱石作品の中ではマイナーかもしれませんが、読んでみると
なかなか味があるのです。

中でも「野分」は、結構好きな作品。

主人公は文学者であり、教師でもある白井道也。
教師として在任中、支配権力に公然と反抗して職場を追われ、地方を
転々としますが、結局教師を辞めることになってしまいます。
東京に戻った彼は、筆の力によって社会に働きかけようと「人格論」を
執筆する傍ら、雑誌の編集等でどうにか生計をたてるのですが、妻には
そんな夫の生き方が理解できません。

貧しくとも俗世間に流されず、文学者として自己の思想を貫き通す
道也先生の生き様に感銘を受けるのが、元教え子の高柳周作。
苦労して大学を卒業するが職もなく、筆耕で何とか暮らしている彼に
とって、世間は冷たく厭わしい存在で孤独感を募らせていました。

文中で道也先生がこのように言ってます。

人間は道に従うより外にやり様のないものだ。人間は道の動物
であるから、道に従うのが一番尊いのだろうと思っています。
道に従う人は神も避けねばならんのです。岩崎の塀なんか何でもない。

岩崎の塀とは、実業家岩崎弥之助の邸宅のことで、金力の象徴
として描かれています。

文学者としての理想と現実の中で、道を守る道也先生の生き方に
漱石先生の文学者としての決意が込められているように思えます。
事実、漱石先生も権力と闘いながら道を貫いた人ですよね。

物語のクライマックスで、吹きすさぶ風の中「現代の青年に告ぐ」
という題で演説する道也先生。
教師を追われ、妻からも理解を得られない先生でしたが、この時は
威風堂々と自らの思いを熱く語ります。
そして、傍聴して感銘を受けた高柳君は、最後にある行動に出るのです。

とにかく、孤高の文学者「白井道也」がカッコイイ!
社会を金だけで価値づける文明社会に対して、勤王の志士以上の覚悟を
もって道を貫かねばならないと語る道也先生。
そのまま漱石先生の言葉なのでしょう。

ちなみに、タイトルの「野分」は、二百十日前後に吹く強い風のことで
台風の古称。
道也先生がおこした風は、少なくとも高柳君という一人の青年の
心を突き動かしたのではないでしょうか。



★「野分」が収録されている「草合」の装幀については、コチラをどうぞ。
https://tsukimisou-rock.blog.ss-blog.jp/2021-04-01

タグ:野分
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美しい本の世界<草合> [夏目漱石]

今日から新年度ですね。
新たなスタートに、思わずうっとりするような美しい本をご紹介します。

夏目漱石「草合」。

「くさあわせ」と読みます。
どういう意味なんでしょうね(苦笑)。

本体は帙という、書物の損傷を防ぐために包む覆いにくるまれており、
これは、以前ご紹介した「虞美人草」と同じです。
今回も橋口五葉様による装幀。
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紐をほどくと、本体が現れます。
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こちらが本体。なんて美しいのでしょう!
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多色摺りに漆を重ねるという、非常に凝った手法。
漆で表現した葉に、蝶、鳥、桜、青海波模様が描かれています。

デザインのアップ。
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見返し。
草花を愛した五葉様のセンスが余すところなく発揮されてます。
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扉。こちらにも花が描かれています。
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収録作品は「坑夫」と「野分」。
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奥付。
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漱石本の中でも「虞美人草」と「草合」は、ひと際凝った装幀で、
まるで工芸品のようです。

「虞美人草」の装幀については、こちらもどうぞ。
https://tsukimisou-rock.blog.ss-blog.jp/2021-01-05-1

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