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野分 [夏目漱石]

先日「草合」の装幀について触れましたが、収録されている作品は
「坑夫」「野分」の2つ。

どちらも漱石作品の中ではマイナーかもしれませんが、読んでみると
なかなか味があるのです。

中でも「野分」は、結構好きな作品。

主人公は文学者であり、教師でもある白井道也。
教師として在任中、支配権力に公然と反抗して職場を追われ、地方を
転々としますが、結局教師を辞めることになってしまいます。
東京に戻った彼は、筆の力によって社会に働きかけようと「人格論」を
執筆する傍ら、雑誌の編集等でどうにか生計をたてるのですが、妻には
そんな夫の生き方が理解できません。

貧しくとも俗世間に流されず、文学者として自己の思想を貫き通す
道也先生の生き様に感銘を受けるのが、元教え子の高柳周作。
苦労して大学を卒業するが職もなく、筆耕で何とか暮らしている彼に
とって、世間は冷たく厭わしい存在で孤独感を募らせていました。

文中で道也先生がこのように言ってます。

人間は道に従うより外にやり様のないものだ。人間は道の動物
であるから、道に従うのが一番尊いのだろうと思っています。
道に従う人は神も避けねばならんのです。岩崎の塀なんか何でもない。

岩崎の塀とは、実業家岩崎弥之助の邸宅のことで、金力の象徴
として描かれています。

文学者としての理想と現実の中で、道を守る道也先生の生き方に
漱石先生の文学者としての決意が込められているように思えます。
事実、漱石先生も権力と闘いながら道を貫いた人ですよね。

物語のクライマックスで、吹きすさぶ風の中「現代の青年に告ぐ」
という題で演説する道也先生。
教師を追われ、妻からも理解を得られない先生でしたが、この時は
威風堂々と自らの思いを熱く語ります。
そして、傍聴して感銘を受けた高柳君は、最後にある行動に出るのです。

とにかく、孤高の文学者「白井道也」がカッコイイ!
社会を金だけで価値づける文明社会に対して、勤王の志士以上の覚悟を
もって道を貫かねばならないと語る道也先生。
そのまま漱石先生の言葉なのでしょう。

ちなみに、タイトルの「野分」は、二百十日前後に吹く強い風のことで
台風の古称。
道也先生がおこした風は、少なくとも高柳君という一人の青年の
心を突き動かしたのではないでしょうか。



★「野分」が収録されている「草合」の装幀については、コチラをどうぞ。
https://tsukimisou-rock.blog.ss-blog.jp/2021-04-01

タグ:野分
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