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泡 [本のこと]

松家仁之さんの「泡」を読みました。

「泡」という言葉について、いろいろな解釈をすることができて、
タイトルが絶妙な作品。

内容に少し触れると。
高校二年生になって間もなく、学校に行けなくなった男子校生の薫は、
大叔父のもとでひと夏を過ごすことになり、東京から離れた海辺の街に
やってくる。
大叔父が営んでいるジャズ喫茶で働いている岡田という青年に仕事を
教わりながら、店を手伝うことになった薫。
料理をすることに楽しさを見出したり、自分の周りにはいなかったような
大人たちと触れ合うことにより、少しずつ前を向いていく。

先述したようにタイトルになっている「泡」というのは、作品の中で
いろいろな意味を持っているように思います。

例えば、薫はとても繊細で思ったことを吐き出すことができないため、
空気の吸い過ぎで体の中にガスがたまる吞気症(どんきしょう)を
患っていて、お腹からガスを出す時に泡となって外に出ていきます。

それは物質的な泡なのですが、自分で自分をコントロールすることが
できない思春期特有な部分を泡として表現していたり、また思春期の
儚さも、すぐに消えてしまう泡に例えているようです。

出征してシベリアに抑留された辛い過去をもつ大叔父だって、人の命の
儚さを泡のように思っているかもしれないし。
どこからともなく流れ着いてきた岡田の姿も、泡のよう。

3人が感じた生きづらい世の中は、息をしづらい世の中とも言えるので、
それを泡として吐き出すことが大事。
小説の中のことに限らず、現実の私たちが、今まさに感じていること
なのかもしれないです。

松家仁之さんの作品は初めて読んだのですが、重そうなテーマなのに
重く書かれてないところが凄いなと思いました。

装幀にも触れておくと、「泡」という文字のところに控えめに泡が
ブクブクと描かれているのがほっこりします。
小説の雰囲気に合ってますね。



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