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生と死と文学 [本のこと]

死ぬことなんて怖くない。

そんな風に思う人もいるかもしれません。
けれど、多くの人は死を恐れているのではないでしょうか。
私もそうです。

そもそも、なぜ死ぬことは怖いのだろう。

そんな問いが常に頭の片隅に貼りついているものですから、生と死を意識した様な作品につい興味を惹かれてしまうのです。

今回読んだ本は、「生と死と文学」
先月お亡くなりになった加賀乙彦さんのエッセイです。
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精神科医であり、作家でもあった加賀さん。
戦時中は軍国少年として育ったこと、精神科医としてフランスに留学した時の体験、安楽死について、拘置所で医師として勤めた際に死刑囚と接した体験などが綴られています。
さらに死刑制度や尊厳死など、日本が抱える問題についての鋭い批評もあり。

また、若い頃からトルストイやドストエフスキー等のロシア文学を耽読した加賀さんは、ご自身の作品にもその影響が投影されているようです。本作では、漱石先生や大江健三郎、野上彌生子など様々な作家についても書かれています。

本を読むというより、何度も読み返して咀嚼しているような読み方をされていて、なるほどそのように読むと一つの作品を色々な角度から楽しめるだろうなと、目からうろこでした。

私も一時期、ドストエフスキーやトルストイにはまったことがあるのですが、何度も読めばもっと理解できるのかもしれないと希望が湧きました。

そして、この作品の中で特に印象的なエピソードが、死刑囚の生と死について。

東京拘置所の医官をされていた加賀さんは多くの死刑囚と会う機会があり、そのほとんどがノイローゼを患っていたそうです。その原因を探るため、無期囚と比較してみたところ、彼らは大人しく静かに過ごしていました。

死刑囚と無期囚で何が違うのか?
それは、時間なのですね。

死刑囚の毎日は、近い将来に死がやってくる。
明日か明後日か、毎日死を感じながら生きているので、精神的に耐えられなくなる。
そういう状況になると、人間は自分自身を変えようとしてノイローゼになってしまうのだとか。

一方で無期囚はというと、毎日毎日死は遠くにある。
刑務所で一生を過ごさなければならないので、なるべく死というものを遠くに置いて身近なものにしない。そうやって余計なことを考えないで生きようとするから、苦痛がない。

死刑囚の凝縮された時間と無期囚の無限に希釈された時間。
その中間に私達人間は置かれているのではないかと考える加賀さん。

なるほどなと思いました。
私達は死という問題からなるべく離れて暮らそうとしているけれど、いつかは対峙しなければならない。死刑囚のように差し迫ってはいないけれど、無期囚のように遠くにあるかどうかは分からない。

加賀さんが若い頃に出会った死刑囚の言葉が印象的でした。

死というものは、いつ来るか分からないけれども、死を、恐いもの、嫌なものと思っている限りでは、死と対決出来ない。死というのは、人間に与えられた大きな恵みであるというふうに考えなおしたらどうだろう

うーん。まだまだそこまで達観できそうにない私です。

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