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美しい本の世界<明暗> [夏目漱石]

ついに、この作品に辿り着きました。

漱石先生の遺作となった「明暗」。

先生が執筆途中で亡くなったため、未完のままです。
装幀を手掛けたのは、「道草」に続いて津田青楓。

函。クロス装になっている。
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表紙、背、背表紙。
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背には「漱石遺著」と記され、背表紙には何も描かれていません。
表紙に描かれている女性や草花、鳥などから優しく穏やかな雰囲気を感じます。

見返し。
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扉。絵が可愛らしい。
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扉の次には漱石先生の写真。
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その次の頁には、本編最終章「百八十八」の最初と最後の部分の直筆原稿が掲載されています。
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写真といい直筆原稿といい、遺著ということがうかがえる装幀になっており、故人を偲ぶ気持ちがこめられているように思えます。

奥付。今作も岩波書店から発行されました。
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漱石先生が津田青楓に宛てた手紙でこの様におっしゃっています。

世の中にすきな人は段々なくなります
さうして天と地と草と木が美しく見えてきます
ことに此頃の春の光は甚だ好いのです
私は夫をたよりに生きてゐます

もしかすると、漱石先生の気持ちを知っている青楓だからこそ、表紙の様な絵を描いたのかもしれないと思ったりします。

また、本作の最後の頁には、以下の様な表記が補足されています。
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附言、作者は此章を大正五年十一月二十一日の午前中に
書き終わつたが、其翌日から發病して、十二月九日終に逝く
斯くして此作は永遠に未完のまゝ残つたのである。

漱石先生が最後となった「百八十八」章を書き終わった後に発病し、その後12月9日に逝去されたため、本作が未完に終わったことが記されています。

私思うんですが、小説も絵画も音楽も、芸術作品というものは、完成されていなくてもいいじゃないかって。作者の思いを想像することに意味があるような気がします。

そういう意味でいうと、「明暗」という作品が未完で終わっていても、私たちはその余白部分を好きなように埋めることができるんですよね。

青楓が背表紙に何も描かなかったのは、未完という意味があるのかもしれないけれど、もしかしたら上記の様な余白の意味も込められているのかな。
なんて、いろいろ想像してしまいます。

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