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美しい本の世界<こころ> [夏目漱石]

久しぶりの美しい本は、漱石先生が自ら装幀を手掛けた「こころ」をご紹介。

漱石本の装幀といえば、「吾輩は猫である」から「行人」にいたるまで多くの
作品を手掛けたのが橋口五葉様ですが、「こころ」では先生自身が装幀を
手掛けました。
その心境が「こころ」の序文に以下の様に記されています。

装幀の事は今迄専門家にばかり依頼してゐたのだが、今度はふとした動機から
自分で遣つて見る気になって、箱、表紙、見返し、扉及び奥附の模様及び題字、
朱印、検印ともに、悉く自分で考案して自分で描いた。

では、先生渾身の作品を見ていきましょう。

まずは、函。
植物の模様が薄く描かれており、鮮やかな色ですが落ち着いた雰囲気。
kokoro_1.jpg

表紙、背、背表紙。
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地紋には中国、周時代の石鼓文の文字が使用されており、表紙の中央ケイ囲みの
中は、旬子の康煕字典「心」の項が引用されています。
五葉様のアールヌーボー調や華やかな草花のデザインと比べて、どことなく
重厚な雰囲気が漂っています。

こちらは、見返し。
kokoro_3.jpg

見返し裏の中央には、陰刻朱印で「ars longa, vita brevis」の文字。
kokoro_4.jpg

扉には、中央に朱色で「心」の文字があしらわれ、周囲は先生が描いた
「東洋風に座る仙人」を木版墨摺りにしたものになっています。
木版は、伊上凡骨によるもの。
kokoro_5.jpg

奥付。
kokoro_6.jpg

校正を手掛けたのは岩波茂雄で、彼が興した岩波書店から刊行。
その後、岩波書店は漱石全集を刊行し、その装幀には「こころ」の表紙の
デザインが踏襲されています。

面白いのが、函の背には漢字の「心」、本体の背にはひらがなで「こゝろ」
となっていて、先生の名前も函は「夏目漱石著」、本体は「漱石著」と
なっています。
わざと変化をつけているのでしょうか。
kokoro_7.jpg

先生が、理想の装幀を自分自身で実現させたいという思いで作った
「こころ」は先生の装幀の集大成となっており、まるごと夏目漱石本。
このうえなく贅沢な一冊となっています。

タグ:装幀
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