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のんのんばあとオレ [本のこと]

以前から気になっていた作品をようやく読むことができました。

水木しげる「のんのんばあとオレ」。


「ゲゲゲの鬼太郎」でお馴染みの水木しげる先生の少年時代が記された作品。
水木先生といえば、鳥取県境港の出身。
すぐお隣は祖父母の出身地である島根県ということもあり、私も以前境港の水木しげるロードを訪れたことがあります。
山陰地方というのは、古くからの伝承や神話が残っている土地であるため、どこか神秘的なイメージを抱いています。

そのような場所で生まれ育った水木先生が妖怪に興味をもつことは、ある意味必然のような気もしますが、近所に住む「のんのんばあ」というおばあさんの存在が大きく影響を与えていたのでした。

のんのんばあは幼い水木少年に、七夕やお盆、祭りなどの年中行事のほかに、お化けや妖怪などの不思議な話を聞かせてくれました。
例えば、夜寝るときに天井のシミを見ては「あれは夜、寝静まってから天井なめというお化けが来てつけるのだ」と聞かせる。そういわれると、確かにそれらしいシミがあり疑う余地はないと思う水木少年。

また、のんのんばあの故郷である島根半島の諸喰という場所に二人で訪れた際、サザエのつぼ焼きがたくさん出されたので、食いしん坊の水木少年が一番大きなサザエを手にとると「サザエは年取るとサザエオニという妖怪になる。大きなサザエはサザエオニになるかもしれない」とのんのんばあ。
それを聞いた水木少年がふと海の方を見れば、陰鬱な日本海がうねうねとうねっていて、いかにもサザエオニが出そうな雰囲気。結局小さい方のサザエにしたのでした。

のんのんばあの話し方によほど説得力があったのか、それとも水木先生が純粋だったのか。
いずれにしても、幼い先生はのんのんばあの妖怪話にどんどん惹きこまれていき、大人になっても妖怪採集を楽しまれていたようです。

本書はのんのんばあのことも随所に出て来ますが、先生の少年時代のお話でもあります。
例えば「たのしみが多すぎて、勉強どころではなかった」と記されている様に、山陰の自然の中でガキ大将を目指してケンカをしたり、チャンバラごっこをしたり、いたずらをして叱られたり、かなりのわんぱくっぷりでのびのびと過ごしていらっしゃる。

自分の子供の頃を思い出してみると、水木先生ほどワイルドではなかったものの、遊んでケガをしたり大人に怒られたり、なんていうのは日常茶飯事で。そういう経験から学ぶことも多かったなと思います。
先生もこのようにおっしゃっています。

あの少年時代の奇妙なオドロキ、奇妙なケンカ、そして奇妙なスリルは、わすれることができない。
世界はオドロキに満ちており、ぼくはいつも、少年時代をなつかしく思い出す。
新鮮な子供の時の、自然やみるものきくもののオドロキは、やはり子供の時に味わっておかなければならない大事なことなのかもしれない。

のんのんばあから教えてもらった妖怪の話を通して、数々の奇妙な体験をした少年時代。そして、大人になっても少年の心を持ち続けた先生。
妖怪って純粋な心を持つ人にしか見えないのかもしれないですね。

本書の最後の方では、青年時代についても少し触れています。
少年時代とは違って苦しい時代で、さらには戦争での過酷な経験。
しかし、どんなに辛い時でも先生は前向きに生き抜いていきました。
それは、やはり少年時代の経験が大きかったのかもしれません。

最後に。
学校にも就職にも落第し、もうこれ以上落第するものはなにもない状況に陥った時の先生の言葉にとても勇気を頂きました。

なにがあろうとオレはオレなんだ。虫やキツネや海草は、落第も及第もなくやっているし、人間だって、からださえ健康ならどこだってくらせるとおもっていた。

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