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密やかな結晶 [本のこと]

小川洋子さんの「密やかな結晶」を読んだ。

刊行から25年以上経った今もなお、日本のみならず世界中で読み続け
られているという本作。

物語の舞台は、人々の記憶が少しずつ消滅していくという島。
切手や香水、鳥、そして左足…。
物や生き物だけでなく、自分自身までもどんどん消滅していくが、
島民は当たり前のようにそれを受入れ、どんなに大切なものでも、
まるで大したものではなかったかのように記憶から消し去っていく。

記憶を消し去ることができない者は、秘密警察によって連行され、
その後の行方を知る者はいない。
これを記憶狩りという。

小説家である主人公も、他の島民と同じ様に消滅を受入れて暮らして
いたが、ある日彼女にとって大切な存在であるR氏が秘密警察に目を
つけられていると知り、子供の頃からお世話になっているおじいさんの
協力のもと、自宅に小さな隠し部屋を作り、匿うことにする。

まるで「アンネの日記」を思わせるが、実際に著者の小川洋子さんは、
「アンネの日記」からインスピレーションを得たそう。

だからなのか。
読んでいると得体の知れない怖さを感じるのは。

どんどん自由を奪われていくのに、淡々と受入れる人々。
それをおかしいと訴える人々は迫害を受ける。
決してどこか遠い世界の物語ではなく、今この瞬間にも起こっている
ことなのだ。

消滅が進んでいく主人公に、大切なことは何であるかを必死に伝え
続けるR氏。
「密やかな結晶」というタイトルに込められた意味は、小川さんが
この世の中に訴えている強いメッセージなのだと思った。
やっぱり小川さんの作品、好きです。

作品の帯に「コロナ禍で世界の揺らぎを体験した私たち。人の根幹に
あるものを問う一冊」とあるが、まさに今読むのにふさわしい作品。



タグ:小川洋子
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