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島暮らしの記録 [本のこと]

画家であり、ムーミンの作者でも知られるトーベ・ヤンソン。

彼女はパートナーのトゥーティと2人の漁師と共に、フィンランド湾沖の
クルーヴハルと呼ばれる小さな島に小屋を建て、毎年の夏を過ごした。

「島暮らしの記録」は、彼女が島で過ごした日々の出来事が記されている。


面積6、7千平方メートルほどの小さな島は、水も電気もない。
岩だらけの地盤に火薬をしかけて発破し、小屋を建てるところから始まる。
建築に必要な資材もボートで運ばなければならない。
もちろん生活に必要なものも全て、ボートで他の島まで調達しに行く。

嵐になればボートを出すことができないので、島に閉じ込められる。
周りは四方海に囲まれているのだから、大波がくれば小屋が流される
こともありうる。
自然の脅威と常に隣り合わせなのだ。

ある日島を強風が襲い、トーベの母ハムがねぐらにしていたテントサウナが
水浸しになる。
ハムは小高い岩場にある小屋に辿り着くために、泳いで渡らなければならな
かったが、愉しかったようだと記されている。
80歳を超えているのに、危険を愉しんだことに驚き!

トーベやトゥーティもそうだが、あえて不便な生活を選ぶような人達には、
危険な冒険を愉しむ余裕が必要ということなのだろう。

トーベはなぜ、わざわざ毎夏をこの島で過ごしたのか。
常に自然の脅威にさらされているが、ここでないと見ることができない
景色や生き物たちとの触れ合いがある。

湾岸の岩礁帯で、まるで海がもちあがるかのような巨大な氷解け。
その様子をトーベはこう記している。

眼が覚めると、海一面が氷解けだった。
信じがたい隊列が穏やかな南西風に運ばれて通り過ぎていく。
眩しくきらめき、路面電車とも大聖堂とも太古の洞窟とも見紛うばかりの、
そう、なんでもありの壮大さで。
しかも気の向くままに、冷たい青、緑、―夕暮れには橙へと、色合いを変える。
早朝には薔薇色に染まっていたのだろう。

77歳で体力の衰えを理由に島を引き上げるまでの26年間の夏をこの島で
過ごしたトーベ。
そこは誰にも気兼ねすることなく、マイペースに過ごすことのできる
トーベの隠れ家だったのだろう。

そして、自然をまるごと受け入れ、愛したトーベの逞しさは、今を生きる
私達も見習いたいと思う。

こちらは、内山さつきさんによる「トーベ・ヤンソンの夏の記憶を追いかけて」
という冊子。
tove_1.jpg

「島暮らしの記録」を読む前に、古書店で手にした。

内山さんは2014年の夏に、友人と二人でクルーヴハルのトーベの小屋に
一週間滞在する機会に恵まれたのだそう。
この冊子には、島やトーベの小屋の様子が写真付きで紹介されている。

小屋はとてもきれいに手入れされていて、トーベが過ごしていた当時の
面影が残っている。
tove_2.jpg

内山さんをなんとも羨ましいと思ったが、送迎のボートが行ってしまうと、
島に取り残されてしまい、もし嵐が来たらボートも来れなくなってしまう
という不安と背中合わせなのだ(苦笑)

もしこの冊子を手にすることがあれば、「島暮らしの記録」と共に読むと
より一層、トーベの島暮らしに触れることができるように思う。

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